山下埠頭の中心に、横浜市を象徴するような建物として、誰もが楽しめ、何度も訪れたくなるような多機能図書館を建設することを提案します。
多機能図書館について考えるとき、私は、2018年に開館し2019年に世界一の図書館に選ばれたヘルシンキ中央図書館とニューヨーク公共図書館群と青山にあった「こどもの城」を参考に考えをまとめました。ヘルシンキ中央図書館については「Pen-online」、ニューヨーク公共図書館については菅谷明子さんの『未来を作る図書館』〜知的創造空間としての図書館の可能性〜ニューヨークの事例から〜、こどもの城については施設利用した思い出を参考にしました。
陽光をふんだんに取り入れた建物は、明るく開放的で、周りは公園として、自然で開かれた空間の中に建てます。夜には、海を挟んだ対岸やインナーハーバーを周遊する観光船からも、元町や中華街、山下公園方面からも、美しい光を帯びた建物として目を引き、観光スポットの一つとして加わることになるでしょう。
横浜を幸福な気持ちで過ごせる街に
教育水準と国民の幸福度が高いとされている北欧の国々には、子どもからお年寄りまで、誰もが居心地よく過ごせるようにデザインされた、魅力のいっぱい詰まった多機能図書館が発展しています。横浜市の人口は約380万、フィンランドやデンマークの人口の半分強となります。広くて人口も多いため、18行政区ごとに縦割りの活動を考えがちですが、私は、横浜市全体の中で「人、もの、こと(経験)」が魅力的につながる場所が必要だと考えています。
誰もが楽しめ、何度も訪れたくなるような多機能図書館
ここで言う多機能図書館は、再編成され、地域のコミュニティー的な働きが加味された各区の区立図書館の象徴的な施設とします。従来の図書館機能のみならず、多くの市民が集まり、学んだり、話し合ったりすることによって、新しいアイデアや考えが生まれる場所になり、市内に人やことの好循環が生じま
心地よく開放的な空間
陽光をふんだんに取り入れたオープンなスペースに横浜港の眺望を仰げるよう机や椅子を配置し、リラックスしながら滞在できる施設にします。自らの思いや想像を巡らせるプライベート空間に加え、共有スペースではグループで話し合うことも可能で、ミーティングなどに活用できるスペースも多数用意します。多様な意見の存在を知り、その中からよりよい共通項を積み上げていく経験は、高等教育や社会に出てからも有用な力となります。
多機能図書館内の施設について
子育て中の家族が、気兼ねなく演劇や音楽を楽しむことができるホールも併設し、自由な発想で造形活動ができる(幼児の造形活動から想像力や創造力を育む、イタリアのレッジョ・エミリアのような教育)施設も併設します。絵本や児童書は、リアルな紙媒体として、ふれあいを重視し、分野によってはデジタルアーカイブ的な方法で、学習や検索ができるようにします。
造形体験というと、カラフルな工作キットで組み立てや色ぬりをして見栄えの良い作品が出来上がることを思い浮かべるかもしれませんが、ここで重要視したいのは、自由な発想で、自分の作りたいものを素材選びから行う、クリエイティブリユース(廃材をアート作品に生かす)の体験です。この活動は、絵を描く技術の上手い下手に関係なく造形活動を楽しめる利点があります。自由な発想を巡らせ、例えば5〜10人のグループ分けをして「未来のまちづくり」などの課題で制作すれば、自分と違う意見の子とアイデアを持ち寄り、協力し合いながら楽しく作り上げることができるでしょう。ここで得られる経験は、単なる工作を超えた、グループワークの礎になっていくと思われます。
小さな頃から、文化芸術と触れ合う利点
小さな頃から文化・芸術に親しむことは、人が幸せな人生を歩んでいく基礎的な経験となるでしょう。演劇の魅力は、登場人物の生き方や言葉によって、最初は俯瞰していた観客の気持ちに、他者の視点や、時には何百年も前の人とも心が通じあえるような体験にあります。自らの感性を問い直す経験は、人生を豊かにしてくれることでしょう。
若き起業家の支援〜ニューヨーク公共図書館の活動を参考にして
家庭環境に恵まれない青少年も希望を持って未来を描けるよう、PCや先端機器を時間貸し、使い方を教えたりする、支援の仕組みも作ります。
『未来を作る図書館』(菅谷明子、岩波新書、2003年)によれば、いくつもの部門別図書館群からなるニューヨーク公共図書館の中には、科学産業ビジネス図書館があり、市民が持つ様々な可能性を引き出すのに役立っているそうです。今では世界を代表するような企業経営者になった人の中にも、このシステムに救われ起業に至った人も多く、その寄付や経験の伝授が次世代の起業家を支えているそうです。アメリカが発展し続けている要因の一つとも考えられます。
私は仕事の関係で、毎年1〜2回、主に児童関係の福祉施設への奉仕活動に裏方として、時には参加者の一人として関わってきました。児童福祉施設の子どもたちと時間を共にして感じたことは、社会階層が固定化してきていて、たった1回の経験が劇的にその子たちの生活を変えることになるのだろうかというもどかしさです。その子たちに光を当てられるとすれば、家庭環境に恵まれなかった子どもたちの中から、アイデアを持ったリーダーが育っていくことが一番なのだと思います。資金援助が難しいのだとしたら、起業の経験でも良いから、提案しあえるシステムを作っていくことが、将来的に横浜市の繁栄にもつながるのではないかと考えています。
多文化共生や多様な人たちの交流の場として
日本在住の外国人や海外からの観光客、障がいを持つ人たちなどとの交流拠点も設けます。料理やダンス、アート作品制作など、ノンバーバル・コミュニケーションから発展させ、より深く理解しあえる場を模索、提供し続けていきます。
ブックカフェでは、本を通じた交流〜様々な年代の人たちと共に
市民が一定の空間を利用できるようにする形で、お気に入りの本を紹介できるブックカフェを作り、本を通した交流が楽しめるとよいと思います。こだわりの書籍を集めた空間は、初めて会った人同士を急速に近づけるきっかけにもなり、関わった人たちに幸せな時間を届けてくれることでしょう。
社会課題に敏感な現代アートの展示スペース
さらに、社会課題を題材にした作品が多い、現代アートを企画展形式で展示できる空間を設ければ、市民が今ある社会課題に問題意識を持って関わるきっかけとなるかもしれません。
企業との連携も
若者の自殺が多く、ジェンダーギャップ指数が145ヶ国中125位と残念な結果だった日本は、裏を返せば、この問題の改善で幸せ度急浮上の可能性を秘めています。みなとみらい地区にグローバル企業の本社や研究機関が集まっているという利点を生かし、企業が海外で蓄積してきた経験を地域に生かしてもらう場を設け、市民との交流が、地域の活性化につながることが期待できます。
文化芸術都市としての拡がり
横浜市は文化芸術都市を掲げて、まちづくりのお手本のように注目を浴びた時代がありました。明治維新にいち早く西洋文明を取り入れてきた街として、文化財的な建物も有しています。また、映画やドラマのロケ地として知られている場所もたくさんあります。
どこに行ってもあるようなファッションビルを建てるのではなく、市が所有しているこれらの資産を保全し、アーカイブ化していくことで、文化芸術に興味がある人たちが集まる街となれば、イタリアのヴェネチアやフランスのナントのような芸術祭やフランスのアビニヨンのような演劇祭が開かれるような都市として発展していけると思います。関内近辺に増えつつある空きビルを利用した、ギャラリーや小劇場、パフォーマンス・スペースを有したカフェなどが広がっていくと、横浜に滞在してその魅力を味わいたいという宿泊観光客が増えることでしょう。
多機能図書館のアイデアコンペについて
多機能図書館の建物は、広くコンペで募集します。多くの人の関心を集めることで、完成後に観光スポットとして注目を集めることに寄与すると思われます。
また、横浜市が、どういう意図をもってこの建物を建てたかという思いを共有することは、380万人の大都市がゆるく一体感を持って存在していく礎になることでしょう。大きな建物の建設は、費用も時間もかかると思います。でも、市民の象徴となるような建物が、どういう働きを持ったものであって欲しいかを様々な形で問いかけていくことは、話し合いに加わった人たちに夢や希望をもたらしてくれるのではないでしょうか? 家庭でも職場でも、強制的に組み込まれがちな町内会でもない、ゆるい人間関係のサードプレイスを持つことは、大都市の住民に緩やかな帰属意識と幸福感をもたらせてくれると思います。