開港以来横浜の港湾で重要な役割を果たしてきた艀。時代の移り変わりによって活躍の場を失いつつあるこの艀に新たな価値を見出し、船劇場という類まれな文化施設として維持活用してきた横浜ボートシアターは、船劇場をより多くの人々が集う“開かれた文化創造の場”にすることを目指しています。自由に参加できるプログラムや劇場機構の拡充について、多分野の市民や芸術家と共に実現し、港町・横浜らしい独自の芸術文化体験ができる場、地域に密着した交流の場として、その魅力を一層高め世界に発信します。
艀は箱型をした自走できない船です。タグボートに引かれ沖から陸地へ荷物を運搬するこの船は、大型船の入港が困難な横浜には不可欠な存在でしたが、コンテナの発達で数が急減しました。昭和後期から平成初期までは、第一線を退き河川に停泊した艀の独特な空間がブティックや劇場等に転用されました。横浜のディープな景観を描き出す艀群のアップサイクルは、大きな可能性を秘めています。
赤錆とひび割れた塗料で覆われた鉄壁の荒々しい風合い、舞台の床に描かれた巨大な曼荼羅絵図。全長30mの船劇場に一歩乗り込むと、時空を超越した異世界が広がっています。硬直した日常は「異界」を必要とします。近代的な劇場とまるで違うこの空間はインスピレーションを刺激し、芸術都市・横浜ならではの新しくユニークな作品を生み出すでしょう。
演劇、ダンス、音楽、伝統芸能、祭り、展示、インスタレーション、落語、お笑い、映画の上映会等はもちろん、滞在創作など取り組みはアイデア次第です。
自治体や他劇場との連携、フェス会場としての活用も視野に、子どもたちの物作りや体験の場、教育機関との連携、バリアフリー化にも取組み、あらゆる人にとって得難い体験の場となることを目指します。
屋根上にステージを作れば野外ライブ、花火鑑賞、カフェに使え、屋根を開閉式にすれば自然光や風の入る開放的な演出も。さらに使わなくなった艀を並べ、複合施設とすれば、港湾都市横浜に相応しい類例のない風景となるでしょう。
〈芸術文化施設〉
『ペニッシュ・スペクタクル』(仏・レンヌ)
世界各地の演劇・映画・音楽・朗読・写真展などを招き文化的貢献を実践する劇場。
『バージミュージック』(米・ニューヨーク)
室内楽用ホール。
『横浜ボートシアター』 船劇場。木造艀を改造し拠点としていたが、沈船により陸上での活動を余儀なくされた際、多くの市民からの寄付により鋼鉄の艀を「船劇場」へと改装。横浜トリエンナーレ2001周辺企画で柿落し公演を行った。
〈ラウンジ〉
『Life on Board II 13号計画』
居住空間兼水上ラウンジ。横浜トリエンナーレ2005で、一般社団法人BOAT PEOPLE Associationが発表。水上の不安定さによる身体性回復の試みや、水域空間の公共性に対する問いかけは今なお有効だ。
〈ホテル、レストラン、バー〉
欧米を中心に多い。特にヨーロッパには、艀を改装したホテルを数十隻も所有して運河周遊ツアーを開催している企業も存在する。