巨大な陸地を形成する山下ふ頭に、水上交通が行き交う「運河」の設置を提案する。
以下にまとめるように、運河ができると、水上交通における山下ふ頭の地理的ポテンシャルを活かせるだけでなく、海を近くに感じられる場所が面的に広がり、またそれが横浜都心部の一等地であるこの土地の価値をさらに高めることにもつながる。
まず、山下ふ頭は、関内関外地区からベイブリッジの方向(東京湾)に向かって突き出た半島である。つまり、船で東京湾から入ってくる時に一番近い中心市街地となる場所である。また、陸側に目をやると、関内関外地区の輪郭を形成するように流れる中村川・堀川と大岡川の二筋の運河の河口をつなげる三角形の底辺に突き出すように横たわる位置でもある。つまり、東京湾と内港地区(ベイブリッジの内側)との結節点にあたる場所なのである。
山下ふ頭に運河を通すということは、この二つの運河(大岡川と中村川・堀川)の循環ルートを作るということでもある。現在はこの運河を海側で繋ごうとするとき、山下ふ頭の先端を回るように外側を大きく迂回する必要がある。この海域は波が高かったり、風が強かったりすると運河に使用する船では危険なため航行はできない。山下ふ頭を横断するように運河が通されると、波や風の影響を抑えて航行可能なため、山下公園側に安全に入ることができる。山下公園にはシーバス(株式会社ポートサービス)等の既設桟橋があるため、運河航路との結節点としてこの既設桟橋との連携も可能となり、水上交通の回遊性は大きく向上する。
横浜港の外側には、発展の著しい川﨑や、水辺開発や水上交通の促進に力を入れている東京、そして東京湾の対岸には歴史的なつながりの深い千葉県の富津などがある。比較的小さな船では、山下ふ頭の外周部は陸地との高低差が大きいため着岸できないが、運河が通されることで埠頭内部に高さを抑えた桟橋を設置できて、多様なタイプの船舶が山下ふ頭に立ち寄ることが可能になる。それはつまり、山下ふ頭とつながることができる他の既設桟橋の利用率をも上げることにも繋がる。
山下ふ頭は約47haと広大な土地を形成している。地方都市の中心市街地並みの大きさを持つような平らな陸地は変化に乏しく、生態系という点でも、豊かな海との接点が外周部にのみ存在する茫漠とした土地となることが予想される。
そこにもし、縦横に運河が通されたとしたらどうか。海は埠頭の内部深くにまで入り込み、広大な土地は運河によって分節される。運河には陸地との温度差が生まれるため、夏場は常に微風が生まれるため、常に空気が動くようになるだろう。また護岸は親水護岸や生物共生護岸にすることで、水辺は人や生物が多様に集まる場所となる。空気や生物が運河によって息づく、まるで毛細血管のように山下ふ頭に生きた空間が行き渡ることとなり、ここにしかないユニークな土地へと変わるだろう。
中村川に初めてとなる桟橋を作るべく、市民と行政、事業者が協力して水上交通や防災訓練といった実証実験を繰り返し、遂に2025年に完成予定の石川町駅前の桟橋の工事が始まった。 この桟橋は臨海部との連絡だけでなく、大岡川の大岡川桜桟橋(黄金町)、横浜日ノ出桟橋(日ノ出町)や、蒔田公園親水広場や堀割川いそご桟橋(八幡橋)とを結ぶ拠点となり、今後ますます運河の水上アクティビティは盛んになってゆく。